「私が不倫したことを周囲に話す夫を名誉毀損で訴えられないか」ーー都内在住の主婦Mさん(40代)から、そんな相談が寄せられました。
10年前に一度目の不倫が夫に発覚し、その際は夫に許してもらい夫婦関係を継続していたMさん。しかし今回、二度目の不倫が夫の会社関係者の密告により発覚してしまいました。
夫は離婚を強く主張し、Mさんは別居での解決を望んでいますが、話し合いは平行線をたどっています。そんな中、夫は前回と今回の不倫について、Mさんの面識がある人・ない人を問わず、不特定多数の人に話しているといいます。
「夫婦間の問題を外部に漏らすなんて」。Mさんは夫が不倫の事実を話して回っていることを、名誉毀損で訴え、慰謝料をもらいたいと考えているようです。夫婦間でも名誉毀損になるのでしょうか。
●配偶者による暴露行為も名誉毀損が成立し得る
名誉毀損とは公然と事実を指摘して人の社会的評価を低下させる行為を指します。 なお、名誉毀損には刑事上の名誉毀損罪と、民事上の名誉毀損(不法行為)に基づく損害賠償請求がありますが、おおまかには同じ判断枠組みが用いられます。
今回の相談者は慰謝料を問題にしているため、以下は民事上の名誉毀損について検討します。
まず、夫による不倫の事実の暴露が「公然性」を満たしているかという点です。名誉毀損が成立するには、不特定または多数の人が認識できる状態で事実が摘示される必要があります。
相談によると、夫がMさんの「面識のある人・ない人を問わず不特定多数」に話しているとのことです。したがって、この公然性の要件を満たす可能性が高いといえるでしょう。
次に、「事実」とは、人の社会的評価を下げるに足りるような事実のことをいいます。
不倫という事実は、一般的に人の品性や道徳的評価に関わる事柄として、社会的評価を低下させる性質を持ちます。たとえ夫婦間での問題であっても、名誉毀損における「事実」といえます。
●「不倫の事実は真実だから名誉毀損にはならない」ではない
「不倫の事実は真実だから名誉毀損にはならない」と考える人もいるかもしれませんが、それは誤解です。
先ほど説明したとおり、仮に真実でも、社会的信用を下げるに足りるようなものは、「事実」にあたります。
また、たしかに、摘示された事実が「公共の利害に関する事実」で「専ら公益を図る目的」であり、かつ「事実が真実である」場合には違法性が阻却され、名誉毀損は成立しないとされています。
しかし、一般人の夫婦間の不倫問題が「公共の利害に関する事実」に該当するとはいえないでしょう。
このように、Mさんの夫の行為は、名誉毀損に当たる可能性があり、Mさんは慰謝料などを求めることができます。また、今回のケースでは、離婚や別居についての話し合いが行われているようですが、名誉毀損の慰謝料請求は、離婚に伴う財産分与や慰謝料とは別個の請求として行うことが可能です。